着物を解く順番

着物は直線断ちされた合理的な衣服です。
構造はとてもシンプルで、どのお着物の仕立てもほぼ同じ。
ということは、古い着物を解くのもほぼ同じ行程で行えるはず。

ただそんなうまい話ばかりではない。
時と場合によっては四苦八苦します。

 

解くのに苦労した着物

古着着物を使った作品作りを初めて数年のころ。解くのに一苦労したモノがあります。

 

リメイクされた襦袢①

戦前のものであろう襦袢。叔母から譲り受けたものです。
リメイクされたものなので、通常の仕立てとは違い解きにくい
ざっと3時間。思いのほか時間がかかりました。
このときの様子をタイムラプスで録画したのでご覧ください↓

ただひたすら着物を解くだけの動画。
初めて編集した動画なので、見づらい点があるかと思いますがご容赦を。

着物を解くのがどれほど大変なのか。

口じゃ伝わらないのよね。悲しいくらいに。。。

ま、私もこうして着物を取り扱う前までは、こんなに大変だなんて微塵も考えたことなかったもの。
着物離れしてるこの時代。着物くらい仕立てられるのが当然だった時代とはわけが違うので、仕方ないですね。

 

 

リメイクされた襦袢②

こちらのリメイク襦袢。

表生地と裏生地を離すだけでも2時間かかった。
古い着物なので、生地糸の生がなくなってる。慎重に解いていかないと、生地が破れてしまう。繊細な作業なのです。

こうして表生地と裏生地を解いたのがこれ↓

赤い裏地(紅絹 もみ)は洗うと大量の染料が流れ出るので、これ以上は解かずにそのままに。あとでまとめて洗います。
紅絹は戦前まで裏地によく使われていた生地。これを見るだけで時代考証が出来たりします。
ただ赤ければ全てが紅絹という訳ではないので、生地の状態もしっかり見て見極めます。

表生地はパッチワークのようにつぎはぎされているので、それらをまた解いていく。
表生地の最終形がこちら↓

ばらばらになりました。これだけで1時間の作業。
着物は手縫いされてるんだけど、それなのに1時間なの。

プレタポルテはミシンで縫製されているので、解くの大変だろうな、って思う。
たまにミシンで縫製されたリメイク着物に出会うけど、解くのに涙がこぼれるほど大変な思いをする。

解くのにこれほどの時間が必要なんだから、仕立てる時間はどれほどのものだろう?

想像するだけで頭が下がる。

 

着物を解く順番

着物も襦袢も仕立ては基本同じ。
どこをどのような順番で縫い合わせていくのか。それは大抵決まっている。

ほぼ「衿」で着物の仕立ては終わる

なので衿から解いていきます。その衿から先が様々なんです。

 

状態や要望にもよるけれど、リメイク着物はプロでもその人のやりやすいやり方で仕立てられることが多い。

特に古い時代の着物は持ち主さんやそのご家族がリメイクされることが多いので、その仕立てはとてもオリジナリティに富んでいます。

だからこれから説明する順序で済まないことが頻発します。
そんなときは、、ストレートに言ってしまうと、解くのにすごく苦労します。

 

着物を解く順番を新たな襦袢を解きながら説明していきます。

半襟も付いたままだし、腰紐も縫い付けられている。それらを解くところからスタートです。

半衿

腰紐

 

褄下

を解いたら、次は左右の褄下(衿下)を解きます。

 

裾、袖付け、身八口

袖つけ身八つ口部分は表地と裏地が細かい縫い目でしっかりと縫い付けられています。

私は解きやすいを解いた後、袖つけ身八つ口と解いていきます。

表地だけになった状態

 

表地と裏地を離す

表地を裏地から離します。

この段階では、袖部分の表地と裏地はまだくっついています。
身頃を先に解いてもいいし、袖を先に解いてもいいし。
ここの順序はお好みでどうぞ。私は身頃の表地を先に解いちゃいます。

 

身頃を解く

ここから表地(身頃)を分解します。
解きやすいところから解いても問題ありません。裏地も同様に解いて完了です。

私の場合は、背縫い→脇縫いの順で解いています。

 

 

着物の解き方のまとめ

褄下(衿下)を解く
②表地と裏地を留めている部分を解く(しつけ糸のようなものでざっくりと留められています)
袖つけ身八つ口を解き表地と裏地を離す
④身頃部分を解く(背縫い脇縫い
⑤袖部分を解く(袖下部袖口

着物の部分名称

 

解く順番は大体こんな感じ。
先にも話した通り、リメイクされてるものは基本の仕立てに忠実でないことが多々
解き始めてみないとわからない。パンドラの箱を開けるかの如く、毎度ドキドキしてスタートさせます。

基本の仕立ては、袖口部分の表生地と裏生地を合わせるところからスタートです。
この方法だと、表生地と裏生地を“完全別物”で仕立てられない
また袖部分はよく動く部分なのでしっかりと縫製しないといけません。
表地と裏地をしっかり縫い付けてあるのはそれが理由の一つ。

 

解き方に関しては、和裁をやっておられる方のほうが断然詳しいはず。
でも、これまで何十枚も解いてきて「やりやすい」と感じるのが↑の順序です。

状態の良い袷着物なら1時間半~2時間あれば解けるようになりました。
それだけ効率よく解けているので、この順序はかなり的を得ていると思います。
(糸がブチブチ切れてしまう古い着物は1.5倍くらい時間がかかってしまいます)

 

着物を解くにはリッパーを使用します。
古い着物は生がなくなってるので、無理に縫い糸を引っ張ると生地が破れてしまうことがあります。古い着物は二度と手に入らない貴重な財産。優しく扱ってくださいね。

 

解いたら洗う

このあと、キレイに洗い、アイロンをかけて、完全なる”布”の状態にします。

 

全部の行程を含めると1日仕事。
作品を作る前の作業は言わなければ分からない。想像すらしてもらえない。
実はこういう下準備や背景もあるのだと、知ってもらえたら嬉しいな。

 

おまけのお仕事

ちなみに解き終わり洗う前の段階でもう一つやることがあります。

それは、解いた着物の情報をデータ化

解いた着物を写真に撮り、採寸をし、情報をデータ化する。
この作業は特に必要ないのだけれど、自分の知識のために行っている。
知識欲が満載な分析家の私としてみたら、やらないと気が済まないし、このくらいは全く苦のない方法。

解く前の状態を写真に撮る

パーツサイズを測る

寸法を記入する

 

こんな感じにね。
これらが具体的にどのように役立つのかはまだ不明だけれど、少なくとも着物の平均的なサイズを知ることができる。
これは着物を扱う人にとってみたら必要最低限の知識であるように感じる。

着物のことをよく知らない人、着物を解いたことがない人にとってみたら、この着物が解かれた姿や採寸された図等はとても新鮮で面白い世界なんじゃないかなと思う。

少しでも興味を持ってもらえたなら、着物は着なくても良いので、解いて洗い何かを作る材料として活用してもらえたら嬉しいです。

 

着物を壊す

着物を解いて別の用途に使う場合「着物を壊す」という表現が使われたりします。
そう言うのは100%が超着物好きの人たち。着物通がよく使う言葉なのかな?

なんか強い表現でためらってしまう。
ググったけど「着物を壊す」って一切出てこなかったし。常用じゃないってことだよね。

是非とも「着物を再利用する」でお願いしたい。

 

ちなみに私が着物を解くのをお願いしている方は「着物を解く」ではなく「着物をほつく」と言います。これは方言ですね。