【一枚の着物ができあがるまで】#2 ~全てはここから:生糸編~

製糸の工程

蚕が吐き出し作った繭から糸を取り出し、何本かを合わせ1本の生糸を作る。
それらを使って絹織物が出来上がります。
繭からどうやって糸を取り出すのか。工程を大まかに分けご紹介します。

 

乾かす

繭に高温の熱風を当て乾燥させる。
このとき割れてしまっているくず繭などは除外。
除外されたくず繭は真綿(まわた)などに利用します。
真綿は文字から「綿」と想像しがちですが、綿ではなく絹です。

 

煮る

埼玉県立歴史と民族の博物館蔵

80~85度の熱湯で生糸に付いているセリシン※1を溶かし繊維をほぐす。
10分ほど煮るとセリシンが溶けて繊維がほぐれやすくなります。

※1 生糸に付いているタンパク質。絹ならではの光沢を持つタンパク質フィブロインの周りに付いているやや硬いにわか状のタンパク質がセリシン。アルカリ液でセリシンを取り除く(精錬する)とフィブロインだけの状態(練糸)となり絹独特の光沢を放つ。

 

繰(く)る

糸繰りは「糸を紡ぐこと」。手で紡いだ糸を巻き取る道具のことを糸繰り車といいます。

埼玉県立歴史と民族の博物館蔵

ほぐした繭から糸端を見つけ取り出す。
このとき作りたい糸の太さに応じて何本かを集め1本にします(生糸)。

この状態で取り出された糸は細くて均一な太さ。そして光沢があります。
反して、紬糸※2は太くて節があり、表面には細かい凹凸が生まれます。

※2 くず繭などから取った糸。繭からの取り出し方も生糸とは違う。次回説明します。

生糸と紬糸の違い
(国立民族博物館蔵)

生糸を紡ぐ方法に、諏訪式と上州式があります。

下の写真は上州式。江戸時代後期頃より使われている日本古来の方法。
特に玉繭などかさ高な糸を紡ぐのに適しています。

諏訪式は、西洋の繰糸機を基に、明治時代はじめに長野県岡谷市で開発されたもの。
比較的均質な糸を作るのに適しています。

上州式座繰り
(埼玉県立歴史と民族の博物館蔵)

 

整える

埼玉県立歴史と民族の博物館蔵

繰り出した糸を巻き直し、糸を整え生糸束にする。
こうしてようやく次工程の「布をつくる」準備が整います。

 

繭から取った糸

1個の繭から取れる糸の長さは1,000~1,500m。
その繭が一枚の着物に約5kgは必要なのだとか。

国産の蚕の重さは1個約1g。約5,000個のお蚕が必要だという計算になりますね。
大きさにもよりますが、よく言われているのは2,000個前後や2,500~4,000個。
いずれにしても、非常に多くの繭が必要なことには間違いありません。

検尺器
(豊橋民俗資料収蔵室蔵)

検尺器:繭からとった糸の長さ(通常450m)を測る機械。

 

次回は。。。

次工程「布をつくる」です。
この工程は本当に幅広く奥が深いです。
こちらも何度かに分け、少しずつお届けしていきます。

 

 

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【一枚の着物ができあがるまで】#5 生地(染めと織り)
【一枚の着物ができあがるまで】#6 染め
【一枚の着物ができあがるまで】#7 着物を仕立てる