【一枚の着物ができあがるまで】#1 ~全てはここから:お蚕編~

着物が仕上がるまでの流れ

着物一枚が仕上がるまでの工程は非常に多く、ここでは全て列挙しきれません。
簡単な流れとして言うと、

①糸をつくる
②生地をつくる
③反物をつくる
④着物に仕立てる

という4つの大きな流れに分けられます。

 

着物は何から出来ている?

そんなことはご存じの方ばかりでしょう。
でも敢えてお答えすると、今では技術の発展により化繊の着物も多いけれど、代表的なものはやはり「絹」ですね。

絹は、吸湿性11%と高く吸水性にも富んでいます。
保温性も高いので、現代のような暖房器具のない昔は有り難い生地だったかも知れません。
また、染色性が最も優れた繊維の一つでもあるので、着物を染めることにも向いています。

絹は動物性タンパク質を含むので、紫外線に当たると黄変し強度低下に繋がる場合があります。
合成洗剤による洗濯にも不向き。
メンテナンスにはドライクリーニングなど少しコストがかかってしまうのが難点。
それでも優しいしなやかさや美しい艶やかさに「手にしたい!」という想いに駆られます。

マーブリングアートで染色したシルクスカーフ

 

絹には命が詰まっている

では絹は何から出来ているのか?こちらもご存じの方ばかりでしょう。
絹は、蚕が吐き出した繭から取り出した細い糸を、生地を織るために7~10本ほどを1本に合わせた生糸※1を基に織られたものです。

基本、撚りなどの加工を加え、織り上がった生地にさまざまな表情を与えます。撚りをかけず生糸で織られた生地は胴裏に使われ、それは「羽二重」とも呼ばれます。

生糸とは、カイコ(蚕)の作る繭層から繭糸を解離し,数本以上の繭糸を抱合させつつ繰糸して得た連続する1本の糸で,撚糸(ねんし)や精練などの加工をしないものをいう。

※1 さらにそれを数本合わせ、より太くしていくこともあります。

ちりめんの「シボ」は解りやすい

絹は蚕という命あってのもの。
絹糸の原料として使われる蚕は「カイコガ」の幼虫。映画『モスラ』のモデルとなった昆虫です。

ここでいう蚕。
昔は家畜として大切に育てられていました。
そのため1匹、2匹でも1羽、2羽でもなく「1頭、2頭」と数えます。
ちなみにサナギに孵っても飛べません。

蚕は桑の葉を食べて育ちます。
1頭あたり約25g(約20枚)

着物一枚に換算すると100kgほどの桑の葉が必要なのだとか。
換算すると4,000頭!たった一枚の着物にものすごい数の蚕が必要なのだと解りますね。

埼玉県立歴史と民族の博物館蔵

蚕はとても繊細な生き物なので、桑の葉はもちろん無農薬。
現代のオーガニックな食事に相通ずるような(笑)。
そんな桑の葉を育てるのも大変なお仕事でしょうね。今では数少ないですが。。。

いずれにしても、想像以上のお蚕さんの数が一枚の着物には必要とされています。
4,000頭の命を纏っているんですから、着物を処分するということは、命を頂く食事を捨てることと同じではないか?と感じてしまいます。

 

お蚕が糸を吐き出すまで

蚕は春蚕、晩秋蚕とあります。質が良いのは春蚕と言われています。
蚕は卵から孵り4週間ほど(約25日前後)で糸を吐き出します。
その後、2~3日ほどかけ繭を作り、サナギになるために自分の身体を保護します。

蚕は室温25度以上の湿度があるところで育てられます。
乾燥した場所では蚕のエサとなる桑の葉もパリパリと乾燥してしまうためです。
あっという間に糸を吐き出す蚕。
その間とても気を遣いながら育てるのは他の家畜と同様ですね。

ちなみに蚕の寿命は約50日ほど。2ヶ月あるかないか、です。
寿命の半分の時間をかけ糸を吐き出すまでに。
残りの半分は糸を吐き出し続け、自身の保護殻の繭を作り続ける。
人間から見たら小さな世界であっても、なんとも筆舌に尽くしがたい壮大な世界が広がっていますね。

 

次回は・・・

お蚕さんが吐き出した「糸」について、です。

 

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【一枚の着物ができあがるまで】#4 ~全てはここから:その他の糸~
【一枚の着物ができあがるまで】#5 生地(染めと織り)
【一枚の着物ができあがるまで】#6 染め
【一枚の着物ができあがるまで】#7 着物を仕立てる