おうちでお蚕を育てる!にチャレンジ① ~前座~

お着物にまつわるお仕事をしている方なら一度はお蚕さんに興味を持たれたことはあるでしょう。

お蚕がどのように育ち糸を吐き繭になっていくのか?

今回はそこで終わらず、その先に続く「糸を紡ぐ」「布を織る」という一連の流れを体験できるワークショップに参加しているので、随時レポートをお届けしようと思います。

 

蚕都の名残がほぼない

私の住む街は蚕都として有名なところでした。戦前までは。
市内には製糸工場、周辺には養蚕農家もたくさんあったのだとか。

明治時代に入り政府による殖産興業のため、製糸工場が関東地方や中部地方中心に作られた。
これら地域は、広大な土地、豊かな水、燃料、そして養蚕農家があるところ。
我が街もその一つだったんでしょうね。

宅地化が進み、市内の野生桑はほとんど見かけなくなっている。
それでも蚕都だったんだから、桑くらい少しはあるんじゃない?
ということで、今回のワークショップではこの野生桑でお蚕を育てる!という企画。

桑の木って?桑の葉って?

と言う初歩的なところからスタート。
ウォーキングやおでかけ中、運転してるときまで気になって仕方ない期間が始まりました。
で、ちょっとした公園に1本植わっているのを見つけた。

私が住んでいるところは市内でも人口が増え続けているエリアで、容赦なく田畑が住宅と化している。
そんなところで桑を探すなんて一苦労。少し遠出した公園で見つけたのもわずか1本です。

仕方なく購入してきたよ。

購入した翌日に知人の畑に桑の木があると知り、そこで調達することにしました!

しかしね、、こんなに桑の木を探すのに苦労するとは思いもしなかったわ。
蚕都は遠い昔のお話し。年月の流れは街を大きく変貌させますね。

 

数少なくなった養蚕農家と世界の生産量

まだ100年も満たない昔には製糸工場も養蚕農家も溢れていた。ピークとなる昭和初期には農家の5軒に2軒が養蚕農家だと言われており、220万軒もあったのだとか。それが不況と戦争の影響を大きく受け激減。また、海外の安価な絹糸や化学繊維の代替、西洋化などのあおりを受け続け、その数もどんどん減っていくことに。

養蚕農家の数(2013年シルクレポート)
昭和初期 約220万軒
昭和50年(1975)約25万軒 ※ピーク時の約1/10
昭和60年(1985)約10万軒
平成7年(1995)約1万4000軒
平成17年(2005)約1500軒
平成24年(2012)571軒

私の住む地域の養蚕農家はわずか1軒。しかもご高齢。
時期が来るとボランティアさんがお手伝いに行かれているようです。後継ぎはいらっしゃるのかな。

そもそも今の若い方々は養蚕家というお仕事をご存じなのかしら?
存在自体を知らない方が大多数かもしれないですね。

養蚕の生産量ランキング(2010)(2013年シルクレポート)
1位 中国     617,915t
2位 インド    131,924t
3位 ベトナム     21,000t
4位 ウズベキスタン  20,000t
5位 タイ       4,655t
6位 ブラジル     4,439t
7位 イラン      1,185t
8位 日本        265t
9位 インドネシア    161t
10位 トルコ       140t

TOP10入りしているほとんどの国は、シルクロードが存在したユーラシア大陸にある国々。

ブラジルのランク入りは何故でしょうね?

戦前は世界1位、2位を争うほどの生産量だった日本も、今ではわずかこれだけの生産量に。
そのため今では輸入に頼りきっています。その輸入元の多くが中国でありブラジル。

ブラジルのシルクは品質が良く高価。ブラタクのシルクは特に有名。
1920年に日本の国策組合が創立し、1940年に独立した日系の会社。
移民が多かった時代。なんだか納得のいく流れですね。
このブラタクで生産するシルクはエルメスのスカーフにも使われているそうです。

日本では生産量は少なくなったけれど、そのぶん「質」勝負で存続に挑まれています。

 

桑の葉の形

桑の葉の形にはいろいろあり、大きく3つに分けます。

①丸っこい卵形

②刻みの少ないもの

③紅葉のような深い刻みのあるもの(山桑)

①の丸っこい卵形は主に関東地方
②の刻みの少ないものは、南の地方
③紅葉のような深い刻みのあるものは、北の地方

に生息していると言われています。関東地方では①~③のどのタイプも見られるそうで。
今は温暖化や栽培方法の発展・進化により全国的にまんべんなく見られるかも知れないなぁ、という感覚ですがいかがでしょう。ちょっと調べ切れていません。。。

葉っぱだけで見分けるのが難しいなぁ、と思ったら、実で確認するのもありですね。

桑の実

実は特徴的なので分かりやすいかも!

ちなみに桑の実はジャムやジュースにするために集めている方も多いのだとか。
葉っぱはお茶に。樹皮は草木染めの染料や和紙の材料に。根の皮は漢方に。
木自体は硬くてキメが細かく、昔から茶卓などの小物や家具に使われていたそう。

余すことなく使える桑の木ってホントすばらしいですね!

 

養蚕の歴史

そもそものきっかけは7000年以上前に中国でクワコを飼っていたのがはじまり。クワコは蚕と同じ先祖持ちます。蚕は人間が効率よく質の良い絹糸を採取するために品種改良を重ねた家畜の昆虫です。

そして4500年以上前の中国。黄帝(こうてい)が養蚕を始めた、という説があります。
中国の絹織物はすでに紀元前(約2500年前)にはインド、トルコ、ペルシア、ローマなどに輸出されていました。
この頃の絹は金と同等の価値があり、同じ重さの金に換えられていました。

中国では長い間ずっと秘密とされてきた養蚕技術。
6世紀に入るとシルクロードを渡りヨーロッパへ伝わりました。550年頃、東ローマ帝国の修道士がスパイとして中国から蚕の卵を杖に忍ばせて持ちかえり、そこから発展したとも言われています。
これほど昔からシルクは多くの人々を魅了していたんですね。

お蚕を育てるのに必要な桑は、これより以前に既に輸入されていたか、このときに持ち帰ったか。定かではないそうです。

 

日本には弥生時代に米作と一緒に朝鮮半島からもたらされました。
中国の歴史書『魏志和人伝』には卑弥呼が魏の国へ絹織物を贈ったと記されています。また『古事記』『日本書紀』にも蚕にまつわる神話が書かれているそうです。

卑弥呼の時代にはすでに他国へ贈れるほど養蚕と織りの技術が発展していた、ということは、伝わった技術のレベルが素晴らしく高度だったんでしょうね。そりゃ秘技とされていたのもうなずける。

そうえば小学生か中学生の頃、中国旅行へ出かけた父親が購入してきた絹織物の艶やかさに感動した記憶があるわ。

 

みなさんのご想像の通り、絹織物はとても高価で身分の高い一部の人しか手にすることが出来ませんでした。
正倉院には朝廷に贈られた絹織物が保管されているそう。『正倉院展』などといった企画展で実際に奈良や平安時代当時の絹織物を見られる機会があるので、是非ご覧になってみたらいかがでしょう?

 

江戸時代には各地で蚕が育てられ、養蚕国として輸出にするにまで至ります。明治時代には近代化を図るため殖産興業による推進が進み、製糸工業が多く作られることに。大正時代終わりから昭和15年というわずかな期間が養蚕のピークとなります。

このピークがあるからこそ、このころ大ブームを巻き起こした銘仙がほんの10年ほどで1億反も作られることができたんでしょうね。(逆に銘仙のブームに養蚕家が増えた?)

あと生糸を輸出するためには港まで運ばないといけないですよね。
これまで馬で運んでいたのをもっと効率化するために鉄道が敷かれたのだとか!

明治22年(1889)には中央線、明治41年(1908)には横浜線が開通。

生糸は輸出品の60%も占めていたというのだから、そこまで力を注ぐのも容易に理解できる。

 

天然の繭

蚕は、人間が品種改良をつづけ都合良く作りかえてしまった昆虫。
目は見えにくく(紫外線は見える)、嗅覚も鈍い。足の力は弱く、飛ぶことはもちろんできない。飛んで行かれたら飼育できないですからね。人間が与えた環境でしか育つことができません。
その蚕が作る繭を家蚕繭と呼びます。
この品種改良の結果、明治時代の繭より2,3倍長く糸が取れるようになりました。

家蚕繭
【形状】楕円、細長、真ん中が凹んだ俵型
【絹糸】長くて1500m、短くて1000mほど、直径0.002mm
【重さ】約2g
【長さ】約35mm

 

これに対し野生の蚕もわずかですが存在します。
国内ではヤママユガという別名天蚕(てんさん)が有名。桑の葉ではなくクヌギやナラの葉を食べて育ちます。ヤママユガの作る繭はきれいな明るい緑色をしており「繊維のダイアモンド」と呼ばれるほど希少で美しい。

ヤママユガは1940年ごろまでは各地で飼われていたそう。とは言っても屋内では飼えないですけどね。天敵や天候によって取れる数に大きな変動あるので不安定。ま、だからこそ野生は貴重で希少で高価なんですよね。

現在は長野県の有明地方中心に育てられています。
飛んでいかないようにクヌギやナラの木に網を掛け、その中に幼虫を放ち育てるんですって!
めっちゃアナログ。だからこその野生(二度目)。

 

現在一部の着物愛好家に人気な野蚕糸(やさんし)
野生の繭から取った絹糸なんだけど、その野蚕糸で織られた帯やお着物がめちゃくちゃ人気なんですって。ただこれ国産じゃなくて東南アジア産。結構節もあると言ってました。

品質としてはやはり国産が群を抜いてるんだとか。
これらお話しは業界人からの情報。要は受け売り(笑)
実際に目で見て確認できたら内容更新しますね。

 

絹糸の使い道

繭ができてから10日くらいで糸を取り出します。
取り出した糸は織物や真綿(まわた)、三味線や琴の弦、釣り糸、手術用の傷口を縫う糸などにも使われているそう。

数年前にCMで話題になった絹でできた化粧品。絹に含まれる上等なタンパク質を使い作られているもの。このタンパク質を活かした研究が熱心にされており、イヌ・ネコの人工皮膚や、酸素を通すコンタクトレンズ、コーティング素材にも活用されているようです。

絹ってすごい。繭ってすごい。お蚕さんってすごい!

そんなお蚕さんを育てる時がやってきました!
写真で見る限り巨大みの虫にしか見えない姿に大いにたじろぐも好奇心の方が勝るので、途中で命を絶やさないよう頑張って育てます!