トゥクトゥクおじさんに捨てられ、帰路が分からず彷徨う友人と私。
かなりの時間を要したが、一向に目的地の船着き場にはたどり着かない。
そして足を踏み入れた場所がかなりやばい場所だったと気づくのには、そう時間はかからなかった。
タイヤや鉄線でバリケードが作られている。
この時点で怪しさを倍速で感じ始めた。
戻ればいいものを歩みを進めていく。
すると道路脇に停められてた車を見て背筋が凍った。
運転席側の窓が割れている。
銃弾を受けた跡。
言葉を失う。
さすがにそんな写真は撮れなかった。
もういい加減どこをどう進んだら良いのか分からない。
すると男の子が通り過ぎた。
声をかける。
あれ?英語が通じない。
地図にある私たちが行きたい船着き場を指さし必死で伝える。
伝わった!!!
彼は歩き出し、私たちが付いていく。
するとすぐに目に入った光景にやっと理解できた。
自分たちがどこに迷い込んでいたのかを。
私たちはいつのまにか反政府デモの活動拠点の中にいたのだ。
そういえば、ワット・ベンチャマボピットすぐ傍には見張り番がいた(軍人ぽかった)。
彼に「入っていい」という合図を受けて先に進んだのだけど、冷静に考えればその時点で普通じゃない、と判る。
旅先でのあるあるなのか、そんなことすらきちんと判断を付けられない状態だったことに、今思うと我ながら呆れるし驚く。
その中で出会った少年。
彼はどうしてそこに居たのだろう?
というのも、ここにはもう誰一人居なかったから。
このとき私たちがタイを訪れたときはバンコク内でのデモがまだ活発だった。
渡航直前には初の死亡者が出た、とニュースで聞いたばかり。
だいぶ終息に近づいていた頃とはいえ、タイへ行くのに家族から反対されるほどだった。
の原因ともなるデモの拠点に紛れ込んでしまっていたことを言えるわけがない。
今も内緒にしている。
もう誰も居ないアジトをあとにし進むも随分と歩く。
30分以上は歩いたかな。
ようやくたどり着き船に乗ったら、道案内してくれた彼まで乗ってきた。
ちゃんと見送りたかったのかな?
ひとまずお礼にスイカジュースをごちそう。
そしたら日本語の本を購入してきて私たちに見せてくれた。
人の良い子でよかった~。
ただこの後お友達のお仕事があったので、そこでさよなら。
もっとお話ししたかったけれど残念でした。
自分たちの不注意とは言え、一歩間違えれば危険な体験。
ただありがたいことに救われることもある。
英語が話せない彼について歩いていたとき。
現地の女性が声をかけてきた。
彼女は英語が分かるので、事情を英語で説明したら、タイ語で彼に伝えてくれた。
やっぱり彼は理解してくれていた。
すると彼女は「あなたたちラッキーね!彼がしっかり船着き場まで連れて行ってくれるから。安心してね。」と言って、彼にも何か伝え、去って行った。
当然ながら、こんなラストが待っているとは思っておらず。
このタイ旅行はかなり強く記憶に残っている。
初めてのタイと言うだけでなく、もれなく付いてきた「トゥクトゥク詐欺」と「デモアジト潜入」の2大ハプニングがそうさせているのは言うまでもない。
トゥクトゥクおじさんのおかげで、滅多に行かないような寺院にも行けたし、素晴らしい装飾や文様を観られた。
人を騙す、というか利用するというのは好きではないので感謝は生まれないけど、おかげさまで、とは思える。
この経験があったからこそ、少年や女性のような心優しい方々と出会えたのも事実。
何もかもその後に何と繋がっているかで、良い経験かそうでない経験か、と意味づけされるんでしょうね。
全て捉え方でもあるので、前向きに考えれば、全てが楽しい旅であったことには間違いない。